『図鑑少年』大竹昭子/中公文庫 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

図鑑少年 (中公文庫)
図鑑少年 (中公文庫)
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大竹 昭子
中央公論新社 (2010-10-23)
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都会で一人暮らしの女性の、これは手記なのか妄想なのか。日常を描いていると思って読んでいると、いつのまにが白昼夢に紛れ込んでいる。

見知らぬ人からの電話。宅配便の誤配。恋人は雑踏に消え、迷い犬が目の前に何度も現れる。全ては鮮明に存在するのに、気がつけば何かを見失い、違う何かを見つける。

日常が現実を踏み越えていく。そもそも何が現実なのだろうか。現実が揺らぎ、日常が揺らぎ、私が揺らぐ。読みながら眩暈がした。

 修理人はガス釜に点火し、作業衣のポケットからセブンスターを取りだした。いきなりタバコを吸うなんて、どういうつもりだろうと怪訝に思い見ていると、形のいい唇にそれをくわえて火をつけた。狭い浴室にこもった煙の流れ具合をじっと見ている。どうやら修理と関係あるらしかった。それにしてもなんとおいしそうにタバコを吸うのだろう。
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