『窓の向こうのガーシュウィン』宮下奈都/集英社 | 砂場

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$書店員失格
『窓の向こうのガーシュウィン』宮下奈都/集英社

額装、というテーマがとてもよかった。ヘルパーである主人公。働き先の男性は額装を仕事としている。依頼人から預かった絵を額装する。額装することによって絵のイメージはガラリと変わる。

たとえば、自分の人生のある一場面を思い返すとき、それはただ記憶が再生されるのではなく、その記憶に対する自分のイメージがくっついた「額装」された状態で浮かび上がる。額装するということ。それは過去の記憶を現在に繋ぎ、そして未来へと導くために、大切な意味を持つ。主人公は自分の過去をうまく額装できておらず、だからこそ今が停滞して未来が見えてこない。

そんな主人公の振る舞いを、鮮やかに「額装」してくれる一家に出会う。主人公は驚く。自分が思っている自分の姿ではないものを、彼らは見ている。それは過剰な装飾でないことが丁寧に描かれる。自分では自分のことがよくわからない。自分のことが見えていないという点では、その一家も同じだった。主人公もまたその一家のことを「額装」して見るようになる。ありのままの姿を見つめながらも、その過去を受け止め、未来を祈るような気持ちで見る。つまり、その一家のことが好きになったのだった。

そして主人公は自らの両親のことを考え、子供時代を思い返す。それまで額装することもなく、ゆらゆらと漂っていた記憶が大きく意味を変えて目の前に現れる。新たに額装された記憶が、心の中にぴったりと収まり、僕には「カチッ」という音が聞こえた気がする。その音がとても心地よくて、つい顔がほころんでしまう。

こんな物語だったと自分なりに額装してみる。本を読むこともまた額装なのだと思う。