『ふくわらい』西加奈子/朝日新聞出版 | 砂場

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$書店員失格
『ふくわらい』西加奈子/朝日新聞出版

やはり特筆すべきはあのラストシーンだろう。もしもあのシーンが冒頭にあったなら、ただポカンとしてしまう。けれど、この物語と共に歩んでくることによって、ともに歓喜と祝福の渦に巻き込まれる。私は西加奈子さんは苦手な作家さんだった。うまく言えないけど、生きることに対して生々し過ぎる感じが苦手だった。けれど、この本はよかった。その生々しい感じはずっとあるのに深く心に入り込んできた。

目に見えるもの、目に見えないもの。生きるうえで切実なものたちの様々な姿をこの物語は見せてくれる。身体と感覚を完全に切り離すことなど出来ず、言葉と意味もまた切り離すことはできない。身体に囚われ、言葉に囚われ、感覚に囚われ、人はまるで目隠しをして生きているように、つまずき転び傷だらけになる。

けれど目隠しをしていても、人と世界はどうしようもなく繋がっている。そして、人と人も繋がっている。その心が離れているいるように見ていても、たとえその姿が見えないのだとしても。わたしの中にあなたがいて、あなたの中にわたしがいる。

ふくわらいをした時、そこに現れる顔が人それぞれで毎回違うように、この物語の感想もまた人によってまったく違うものになるらしい。僕が目隠しをはずしたら(本を読み終えたら)、(感想を書き殴ったメモの中に)こんな言葉が目の前にあって、なんだか自分で書いた気がしなくて不思議な感じだけど、ふくわらいとはそういうものなのだろうなと思う。

「世界は身もフタもなくそこにあって、ただそれだけで美しいのだ」