『空腹の技法』ポール・オースター/新潮文庫 | 砂場

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空腹の技法 (新潮文庫)
ポール オースター
新潮社
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ポール・オースターのエッセイ、序文、評論、インタビューなどが収録されている。半月以上この本を少しづつ読んでいた。それは、詩の評論など、僕にとっては難解な部分が多くて、うまく咀嚼して飲み込むことができなかったということと、たとえ全てが理解できなくても、そこには胸に突き刺さってくる言葉が溢れているからだった。

岸に寄せてくるのは波じゃない。一回ごとに海全体が寄せ、海全体が引くんだ。決して単なる波ではない、つねに全てが寄せ、つねにすべてが引く。
P220(インタビューにてエドモン・ジャベスの言葉)


文学、詩、絵画、ときに綱渡り師について深く熱く語る。詩人にインタビューをして、自分もまたインタビューされる。文学・詩の素晴らしさを誰かに伝えようとする言葉をどこまでも突き詰めていくとき、それはまるで詩のようになっていく。それはポール・オースターが愛する作家や詩人について述べた言葉なのか、その影響を受けたポール・オースター自身が生み出した言葉なのか、僕はその区別がつかなくなっていき、ただ圧倒される。

詩。そして、にもかかわらず、詩。それは壁を掘り抜く力。そして、にもかかわらず、それこそが壁になってしまいうる。おのれがならねばならぬもの、おのれがなりうるもの――ひとつの移行、他者へのひとつの接近――になるために、詩は自分が自分でないことを知ることからはじめなければならない。どこか離れた場所から語っていることを、詩ははっきり認めなければならない。
P26

空間のなかの体。そして、この体と同じくらい自明の詩。空間のなか。すなわち、この真空。天と地のあいだの、どこでもない、一歩ごとに再発見される場所。どこにいようと、我々がいる場所に世界はない。どこに行こうと、我々は自分で自分の先回りをしている――あたかも世界がそこにあるかのように。
P236


ここでポール・オースターが絶賛する詩人たち僕はほとんど知らないし、引用された詩を読んでも残念ながら難解でよくわからない。けれど、ポール・オースターの言葉のいくつかは僕に届いている(ような気がしている)。その受け取った断片を頼りにして、全体の意味を想像していく。ここまで理解できないとそれは「想像」というより「創造」に近づいていく。だから、この本は何度でも読めるし、読むたびに今までと違った何かを発見することができる。それは僕にとって「空腹(からっぽ)」だからこそ生み出される「技法(アート)」なのかも知れない。